Initium


終幕を開く準備は出来た。
主よ…父なる神よ。
いざ御門を開かせたまえ。



「処刑日時が決まった。 "今から"だ。」

宣告された言葉を聞き、瞑想に浸っていた彼の口元に笑みが浮かんだ。

監視員は、数週間前に目にしたのと同じ "それ" に、再び微かな不気味さを感じ
背筋を震わせた。
喜樂の笑みでもなく、ただ微笑んでいるのでもなく、笑いかけているのでもない。
かといって 死への恐怖からくるソレでもなく、以前に同じ。
己の勝利への確信の 笑み。

その笑みが腹に触り、両手をオーバーに広げ、規模の大きさを知らしめてやる。

「"殺し合い" だ。精々楽しむことだな。」
「楽しめるものならね。…剣は使っていいのかい?」

冷静を装っているつもりなのだろうが、全く、莫迦なことを聞く。
殴り合いの殺し合いのような生温い処刑法なぞ、見ていてもつまらない。
武器を持ち、切り裂き・突き刺し、流れる血から死への予感に怯えながら、無駄に足掻く姿を見るのが面白いのではないか。

「そうか。それなら少しは僕も、楽しめるかもしれない。」

闘技場に投げ込まれたときも 彼の口元にはあの笑みがあった。

「なるほど、確かにこれは "殺し合い" に持って来いの数だ」

待ち受ける囚人達の群に視を当てたまま、腰に携える細く軽い剣…愛用のレイピアを抜き、右手に掲げたクロスに口付けをする。

「主よ―父なる神よ―、
 願わくは 御名の尊まれんことを、御国の扉を 今 開かんことを。
 心からの解放を…彼らに安らぎを与えんことを。

 …さぁ、いつでも始められるよ。"終幕" の 幕開けをね―。」