Glorio #04

「ブレッシングっ!」
「ファイアーウォールっ …そこだっ! ファイアーボルトっ!!!」

師のもとで修行を始めて早4日。
ヴェニアスとレグルスはめきめきと力をつけ、技スキルだけではなく、戦闘における適切な判断力や戦略なども養われ、
もう一人前の冒険者として恥じないくらいに成長していた。

「二人とももうレベル40か…。早ぇな」

ちびっこ二人の冒険者手帳を見ながら、グレイブとジェンが声を揃える。
実際、普通に考えて4日でここまで急激に伸びるなんて、ありえないに等しい。
「こりゃ将来が楽しみだな」と笑うグレイブに、「俺様が居たからこそだろ」と自信過剰なツッコミを入れるジェン。
ヴェニアスとレグルスにしてみれば、どちらというわけでもなく、"二人"に感謝することこの上ないわけで、二人にとって、
ジェンもグレイブも、目指す目標であり、師匠であった。

背後に人の気配感じ目をやると、修行の様子でも見に来たのか、1人家に残っていたはずのキルの姿があった。

「よぉ、キル〜。こいつらスゲェんだぜ!物凄い速さで成長してんだっ!」

我が子の成長を楽しむ親のように目を輝かせるグレイブ。
「ほぅ」と低く呟き、同じくキルはまだ戦闘中のチビッコ2人に目を向ける。
ヴェニアスのほうは、まだSPの使い方に少々不安を覚えるが、レグルスの方はお世辞ではなく申し分が無い出来だ。
この様子なら、もうウィザードに転職させても問題ないだろう。

キルは、1人何か決心したかのように小さく頷くと、"ギルドチャット"でアナウンスを流した。

「フローネ、リアン、ジャスティ。聞こえているな?
大事な話がある。今すぐ集合しろ。場所はプロンテラのキャンプだ。」

続けて、ジェンとグレイブにも声をかける。

「…聞こえたな?戻るぞ。」

『大事な話ってなんだろう』と首を傾げるグレイブに対し、ジェンはキルの思考を読み取ったような面持ちで返事を返す。
ヴェニアスとレグルスも、自分達2人だけでは心細いので、共に帰路につくことにした。





プロンテラに到着した一行の目に入ったのは、目を疑いたくなるような光景だった。

「な…バフォメット…?!」

平和で穏やかな活気に包まれていた首都プロンテラに姿を現したのは、プロンテラ北の端…「迷宮の森」に巣食う
荒れ狂う魔物の王者「バフォメット」。
バフォメットは、その巨大な容姿に溢れんばかりの魔力と破壊力を兼備えている。
高速で唱えられる灼熱の業火の嵐「メテオストーム」は、この大きな街でさえも一瞬で焼き払われてしまうだろう。
しかし、ポリンやルナティックでさえも侵入を許さないくらい警備の厳しいこの街に、何故、このような怪物が…。

「そういや、最近各町々で無差別の大規模テロが連続して起きてるって聞くな。」

背中を流れる嫌な汗に顔を顰めながら、連日の新聞で取り上げられている記事を思い出す。

「なるほど。…となると、恐らく同一のテロリストの仕業か。」

キルは、腰に携える二刀のカタールを抜き、戦闘体勢を取る。

「このままにしておけば、被害は計り知れん。ジェン、グレイブ…やるぞ。」

言うや否や、ジェンは二人に支援をかけ、グレイブはナックルを嵌めた拳を鳴らし、やる気マンマンといったところ。

「ヴェンとレグは離れたところで隠れてろ。出てくるなよ」

ジェンに言われ、コクコクと頷くと2人はプロンテラを囲う城壁近くまで避難する。
それを確認すると、キルの掛け声を合図に、バフォメットとの戦闘を開始した。

前衛であるグレイブとキルの二人が、戦闘を既始めている"プロンテラ聖騎士団"の騎士たちに混ざりバフォメットの足を止める。
その隙に、周りの後衛職が援護射撃をし、ジェンは攻撃に当たらぬよう、少し放れた位置から前衛に治癒魔法「ヒール」や
広範囲治癒魔法の「サンクチュアリ」を送る。
プロンテラに滞在している、数多くの高レベルの者たちも参戦するが、やはり強敵のバフォメットは、怯む様子さえ見せない。
おまけに、バフォメットの召喚する「取り巻き」のオカゲで、ターゲットが撹乱し狙いが定め辛いわ、戦力は分散させられるわ、
取り巻きの攻撃によって続々離脱者がでるわで、かなりの苦戦を強いられている状況だ。

「くっ、皆さん頑張って! これ以上の被害を出さないためにも、なんとしてでも倒すんだ!」

騎士団の隊長と思われるプリーストが、声の限り声援を送る。
その声に煽られ、戦っている者達の闘志が燃え上がるのが、遠くで隠れているヴェニアスたちにまでも伝わってくる。
しかし、その意気があったとしても戦力に足らず、1人…また1人と姿を消し、ついには残ったのはジェン達を含め極僅かの人間となってしまう。

「ジェン!SP(Skill Pointの略)は?!」

いつの間に隣に居たのか、フローネの声にジェンはヒールの手を休めずに応える。

「そろそろ限界。もう2分ももたねぇよ。」
「僕のほうもヤバイ。たぶん、周りの人も」
「いい加減、さっさと終らせねぇとな……」

大勢からの攻撃を受け続けるバフォメットは、突然、けたたましい声をあげると、持っていた鋭く巨大な鎌に似たものを振り回す。
直接その攻撃を受けずとも、風圧で群がっていた人々は蹴散らされ、建物に衝突した刃先は、堅く頑丈な家さえも容易に破壊する。

「ちっ…迂闊に近づけん…!」

バフォメットの鎌や、破壊され吹き飛んでくる瓦礫の数々をを回避し、舌打ちするキル。
いつの間にか後方に差がり、気弾を溜めていたグレイブが、呼びかける。

「キル!! 阿修羅ぶちかます! それまで耐えててくれ!!」

モンクの技の数々を極めたものにしか使うことのできない、「阿修羅覇王拳」。
その威力は計り知れず、命中すれば致命傷を負わせるほどの大打撃を与えられるが、反動は大きく、暫くの間、体が麻痺したり、
あるいは動かすことすら出来なくなることもあるといわれる。
グレイブは、渾身の力を拳に集中させ、狙いをバフォメットの脳天に定めた。

「いくぜ…阿修羅覇王拳!!」





グレイブの渾身の一撃によって怯んだバフォメットは、人々からの総攻撃を受け、なんとか鎮圧された。
いつの間にか日の沈んだプロンテラは、また平穏と賑わいをとりもどしている。
負傷したものは集められ、救助に集った聖職者たちに治癒され、力のあるものは破壊され瓦礫となった山を片付ける。
ある者は逃げる際に逸れた家族や恋人を探し、またある人は鎮圧に精を出したプロンテラ聖騎士団の面々に深く頭を下げていた。
鎮圧されたのを遠目で確認したヴェニアスたちも、グレイブたちのもとに駆け寄る。

「グレイブ師匠、もう終ったの?」
「おうよ。ちょっとばかしヤバかったけど、なんとか収まったぜ。」
「グレイブの打った阿修羅が見事に急所に命中していたからな。怯んだお陰で一気に蹴りをつけられた。」

キルの言葉に、グレイブは得意そうな表情だ。
と、そこへ辺りを見回しながらフローネがやってきた。

「ねぇ、ジェンは?」

問われて、キルは首をかしげる。

「俺はずっと前線に居たからわからんが……後方に居たはずでは?」
「僕の後ろに居たと思うんだけど…」
「師匠、いないの??」

会話を聞いていたヴェニアスが不安げな声色をあげる。
手分けをして探していると、グレイブは傍らの瓦礫の裏に、見覚えのある小麦色の頭を見つけた。
慌てて覗いてみると、やはり、ジェンがぐったりと瓦礫に凭れかかっている。
俯いているため良く見えないが、頭部から出血があるようだ。
服の上に、パタパタと流れ落ちる鮮血がよくわかる。

「お、おい、ジェン!だいじょうぶか?!」

顔を上げさせたグレイブは、驚愕した。
右目には飛んできた瓦礫の破片が刺さり、右顔面が酷い出血で真っ赤に染まっていたのだ。

「こりゃひでぇ…ジェン、すぐ助けてやるからな、辛抱しろよ!」

負傷したジェンを背負うと、グレイブは治療を行う聖職者たちのもとへと急いだ。







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