Glorio #05

負傷したキルを治癒するヴェニアスと、それを手伝うレグルスは、初めて体験する規模の大きなテロに、まだ僅かに恐怖と不安を覚えていた。
少しの物音や気配を感じては、小さな体をビクンと震わせている。
今まで、幾度もテロを鎮めてきたキルやフローネたちでさえも、今回の騒動は相当堪えたようだ。
キルの横に来ると、フローネはグッタリと座り込み、共に疲労の色を見せるファルコンの"ピッチ"を抱き寄せると、深く息をつく。

「まったく…街中でバフォメット召喚するなんて。テロリストは何を考えてんだよ…。」
「何も考えてなどいないさ。テロリストは、人を困らせてそれを見て楽しむ莫迦も同然だ。
 …ヴェニアス、俺はもういいからコイツを見てやれ。鷹もな。」
「うん」

キルの腕に包帯を巻き終えると、SPを少しまた回復させ、指示されたとおりフローネとピッチを癒し始める。
そんなヴェニアスを尻目に、レグルスは「僕にも治癒能力があればいいのに…」と一人小さく呟いた。
まだアコライトのヴェニアスは、SPがすぐに切れてしまうために休み休み治癒を行うことを強いられる。
そんなとき、どこかグレイブに似た声が頭上から投げかけられてきた。

「フロネも居たんだ? 大丈夫?」

呼ばれ、顔を上げるフローネと、つられて真上を見上げ背後から現れた人物を確認しようとするヴェニアスとレグルス。
立っていたのは、金色の癖のある髪に緑色の瞳のプリーストだった。
声だけでなく、容姿や雰囲気も、何処かグレイブと似たものを感じられる。
その見知った人物に、フローネは安堵の表情を見せた。

「クラも居たの。ちょうどよかった、そのアコSPもうないっぽいから少しヒールくれない?」
「ん、ほいよ。」

慣れたやりとりをボンヤリと見つめるヴェニアスとレグルスに、フローネは「知り合いのプリだよ」と教えてやる。
そこへ、ジェンを担ぎ、息を切らせながらグレイブが走ってきた。

「ヴェニ、ジェンを見てやってくれ!早く!」
「ほえ?」
「ほえ?じゃねぇよ!ジェン大怪我してんだっての!」

間の抜けた返事に、グレイブは苛立ちを隠せないようだ。
あたり構わず怒鳴り声をあげ、うろたえるヴェニアスの腕を強く引く。
それを、フローネの知り合いというプリーストは静止させ、自ら進んでジェンの手当てを始めた。

「そのコ、もうSPないんだってさ。休ませてやんなよ。僕が代わりに治療するから。」
「お、おおう…。右目、怪我してんだ。治せるか?」
「ぅわ……」

傷を見たプリーストは、その痛々しさに思わず顔を顰め、子供達は泣き出す始末だ。

「泣くな、煩い。酷い傷ではあるが、死ぬわけじゃないんだ。」

傷に響く。というキルの一言で二人の喚き声は収まったものの、まだ鼻を啜る声が聞こえる。
グレイブは、あまりジェンを二人の視界にいれないよう自分で壁を作り、二人を宥めてやる。

「この傷じゃぁ、ヒールだけじゃ治しきれないよ。病院に行ったほうがいい。」

プリーストの提案に、8人は近くの病院へと移動した。





ジェンの治療手術の間、グレイブは移動してきてから、そのプリーストが覚えの無い人物であることに気づく。

「んでよ、このプリさん、誰かの知り合い?」
「僕の知り合いだよ。ってか相方っての?」
「っていうかさ…」

フローネの曖昧な返事に、プリーストは少々苛立った表情で続けた。

「1年半も逢わないだけで、実の弟の顔忘れるってどういうことさ。兄貴。」

その怒りを越し呆れを帯びた青い目は、グレイブを睨みつけている。
当のグレイブ本人はというと、キョトンと信じられなさそうな顔だ。

「へ?弟?誰の?オレの?」

意外なプリーストの正体に、本人以外の皆、同じような表情を浮かべ、「うそ」だの「本当?」だの信じられないと口を揃える。
暫し悩んだあと、フローネはポムと手を合わせると、モヤモヤが解けたように明るく言った。

「あ、そうか!クラの本名、『クラヴァーナ=リアード』!」

それを聞いたグレイブは、更に信じられないと驚愕する。

「はぁ?!クラヴァーナぁ?! お前、マジで弟のクラヴァーナかよ?!」
「だ・か・ら!さっきからそういってるんじゃんか!この筋肉馬鹿兄貴!!」
「なんでお前プリの格好なんてしてんだよ?! んな格好してたら分かるわけねぇべや!」
「服が違うだけで弟って分からない兄貴の頭がヘンなんだよ!」
「だから、なんでプリーストになってんだよ!職にはつかないって言ってたじゃねぇか!」
「前遊びに来たジェンさんのカッコイイ支援みてたら、やりたくなったの!悪いかよ!」

突如始まった近所迷惑な兄弟喧嘩に嫌気を覚えながら、キルはフローネに尋ね寄る。

「グレイブの弟、お前の相方といったか?」
「うん。一年くらい前かな、ちょっと炭鉱に寄ったらさ、ジャスティからモンハウで壊滅しかけてるから助けてくれって言われて
 助けてあげたんだけどさ。そこにクラが居たのさ。」
「…それで?」
「んーそのあと街に戻った後少し話しててさ。そん時、僕は僕で狩りのパートナー探しててクラも同じように探してて、ここで逢ったのも何かの縁ってことで」
「組んで…今に至るということか。」
「うん。そゆこと。」
「…その時点で、アイツがグレイブの弟だとは気づかなかったのか?」
「いや〜まさかあの時逢ったのがグレイブの弟とは思わなくて…ただ苗字が同じだけかと」

キルが呆れ溜息をついたのと、兄弟喧嘩に勝敗の決着がついたのは、ほぼ同時だった。
腕っ節だけ鍛え、頭の回転はめっぽう悪いグレイブが、知能を鍛えたプリーストである
弟のクラヴァーナに勝てるわけもなく。
しかし、グレイブの開き直りの速さはフローネの射撃の早さよりも上である故…。

「んでよ、クラ。折角だしよ、オレラと一緒に行動しねぇ?」
「なんでまた…」

グレイブの発案に、クラヴァーナは露骨に嫌そうな顔をする。

「いやだってよ、お前フローネとは相方なんだべ?」
「だからってなんで兄貴に付き合わないといけないのさ」
「フローネはこれからオレらとボス狩り行かなきゃならないんだ。ジェンもこの様だしよ、
それに、パーティーにプリは多いほういいし、な?」

目を輝かせるグレイブだが、クラヴァーナはキッパリと即答する。

「ヤだね。めんどっちぃ。」
「はぁ?! なんで!」
「だって僕、早くもっと強くなりたいもん。効率の悪い狩りなんて行くだけ無駄じゃんか。」
「んなこと言うなって。俺たちと居ればよ、フローネにいつでも引き上げてもらえるんだ
ぜ?な?そだよな?」

まるで釣っているような言い様だが、確かに一理ある。
常に行動を共にしていれば、いつでもペア狩りに行けるわけだ。
そう思うフローネは、珍しく真っ当なグレイブの考えに賛同する。

「ほらみろ〜。なぁ、一緒に行こうぜ、クラ。キルからもなんか言えよー」
「………何かって何を言えと…」
「うちのギルドの長所とかよ!なんかあるだろ。」
「……まぁ…確かにこの面子だ。バランスも取れた構成だし、戦力もある。ただ、支援者が不足しているのは確かだ。
 見ての通り野郎ばかりのパーティだから、暇があれば狩りにも行くし、それなりの効率は誰もが望むことだ。」
「つまりは、有無を言わず兄貴らについてこいってこと。」

折れたクラヴァーナは、彼らに同行することを仕方なしに受け入れる。

「ただし、僕がイヤになったら即行抜けるからね。」
「おうよ!ま、イヤになるわけねぇって。なんたって、めっちゃ楽しいギルドだもんな!」

自慢げに話すグレイブに、はいはいと投げやりなクラヴァーナ。
子供達は、仲間が増えたと喜び、フローネも満更でもないようだ。
キルも、クラヴァーナがVIT型の純支援タイプであること聞き、今後の戦いに安心できる。と彼の同行を快く受け入れた。






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