Glorio #07

入り組んだ家々の奥にひっそりと立つ、一件が視界の隅を過ぎたとき、男はピタリと足を止めた。
ここからその家まで、だいぶ距離はあるが、月明かりに照らされたその窓辺に立つ二人の男の容姿に目に入る。
1人は長身のアサシン。
白い髪に赤い瞳という、珍しい容姿をしていた。
そして、もう1人。

「小麦色の髪、茶色の瞳、十字架のシルバーイヤリングに白銀のロザリオ。歳は20そこそこ、身長は平均よりやや低め…。」

アサシンの横に立つプリーストの容姿が、ローグギルドで買ったものと見事に一致したのだ。
そして、何よりも自分の第六感が…直感が、あの男がターゲットだといっている。

「遊び好きで、クソ生意気そうな顔してやがる…」


それから、小一時間ほど経って、二人も完全に眠りに着いたことを確認し、気配を消したまま家内に侵入を始める。
窓から室内を覗き、目当ての人間の眠る部屋を探し当てこっそりと忍び寄と、怪我でもしているのか、右目を庇うように包帯を巻き、
痛みに魘されながら眠るプリーストと、その両脇にはアコライトとマジシャンの子供が腕に抱きつく形でスヤスヤと眠っていた。
同じ、男である自分から見ても、そのプリーストの顔立ちはそこらの美形男子よりも美麗だと思う。
その容姿のよさから、尚更遊び好きで色事好きな記憶にある男と被り、何処からと無く当て様のない怒りがこみ上げてきた。

母と、自分を捨てた、あの男。
あの男に遊ばれたために生まれ、自分を生んだために持病が悪化し、命を落としてしまった母。
病気に苦しむ母を見ていられず、助けを求めに教会に居るその男の下に走ったが、門前払いされた自分を聖堂から冷笑し見つめていたあの男。
与えられた"アスト"という聖なる加護を受けた名は捨て、変わりに"クライア"という呼ばれ名で通すようになってからもうかなりの時が経つ。
しかし、"あの男"に対する怒りと憎しみだけは幾年時が流れようと風化することは無い。
連鎖的に蘇る幼い頃の記憶と、「父親」への底知れぬ怒りに、クライアは我を一瞬見失った。
次に気づいたときには、ベッドで眠るプリーストに跨り、枕元にナイフを突き刺している自分が居た。
当然、放たれた気配と人間の重みにプリーストは目を覚まし、真っ直ぐと自分を見つめてきている。

「そのあくどい面からすると、俺を連れ帰りにきた教会関係者じゃぁなさそうだな。」
「……」
「とすると、強盗か刺客か、あるいは…」

プリーストは、口の端をニっと上げ皮肉な笑いを浮かべ、続ける。

「夜のお遊びがお望みか?」

性格も言うことも、「父親」に良く似ているとますます思う。
ここまできて、このプリーストが、自分の憎んでいる父親…「プログラ=ミエンヌ」の愛息子に間違いない、と確信を感ずるが、念のため、名を尋ねてみる。

「テメェが、プロンテラ大聖堂のプログラの愛息子"ジェン=ミエンヌ"か。」
「だったら何だってんだ?人質にでもして身代金でも要求するってのか?」

冗談を乗せた言いように、また、父の面影を感じ腹の熱が上がる。
クライアは、「はっ」と吐き捨てると、互いの前髪が額にかかるくらいの距離にまで顔を近づける。

「金なんて、もういらねぇ。」
「じゃぁ何しに来たんだよ?」
「プログラが溺愛して病まないっていう息子が、どんな面した野郎なのか、見に来たのさ。」
「んで?ご感想は?」
「プログラに良く似ている。虫唾が走るな。まったく。」

言ってベッドから下りナイフをしまうと、ジェンも体を起した。

「そりゃどーも。あんま嬉しくねぇ誉め言葉だな。」

その吐き捨てる言い様から、ジェン本人も父親を好んでいないように察しられる。
彼が父をどう思っていようと、クライアには関係のないことだが。

「そんで?もう帰っちゃうってんか。」

また窓から出て行こうとする後姿に、ジェンは引き止めるかのような声色で投げかける。

「俺様の見物料は高くつくぜ?」

笑いながら言うジェンに、クライアは足を止めてもういちど、その顔を見る。
改めて見ると、父親に似ている傍ら、やはり、どこか少し「自分とも」似た雰囲気を放っているように感じた。
クライアは懐から少量の丸薬の入った巾着を取り出すと、それをジェンに投げて渡す。

「そいつが見物料だ。1日2回、痛みの酷いときに飲め。じゃぁな。」

颯爽と窓から飛び降り、暗い夜の街へと姿を消したクライア。
残されたジェンは、あの男が結局何のためにここを訪れたのか今一理解ができず、歯がゆさを覚えながら再び床に就いた。







翌朝、今後の行動スケジュールを練る為、キルは再度メンバーを集め、先日受けた指令を確認する。
国王から直々に下された命令は、各地で起きているボスモンスター召喚による大規模テロの鎮圧。
同時に、テロリストの調査である。
大よその目処は立っているとのことだが、それを聞くにかなりの厄介者のようだ。

「各町々で大規模な無差別テロが起こり始めたのは、この1ヶ月ほど。
 どの町でも確認されていたのは、何もない状態の場所からモンスターが次々に現れたということ。」

国王から頂いた、これまでの調査報告書を読み上げるキル。

「このことから、犯人はハイド状態で枝をバキバキ折りまくってると予測される。」
「ただのハイドじゃ、確かアイテムは使えないんだよな?確か」
「ああ。だからクローキングかトンドル、チェイスウォーク、の どれかだろうな」
「っつーことわ、相手はシーフ系か?」
「カードを使えば誰でもクローキング、使えるよ」

ジェンの推理を否定しつつフローネは続ける。

「キル、国王から依頼されたのは、テロ鎮圧と犯人調査のそれだけなの?」
「…それだけ というのは?」
「言葉そのまま。」
「………。あぁ、この2件だけだ。」
「ふぅん…。」
「なんだ?思い当たる節でもあるのか?」

キルの問いかけに、フローネは投げやりに掌を返す。

「さぁね。心当たりがないわけじゃないけど、確信がないから何とも言えない。」
「つかえねーやつ」
「ジェンほどじゃないよ。」
「んなっ…?!」

言い放つと、フローネは簡単な装備を抱え一足先にアジトを後にした。

「んじゃー?そしたらまずはレグの転職だっけ?」

仕切り直し、スケジュールを確認するグレイブ。

「ああ。グレイブはレグルスの試験について行ってくれ。」
「おっけー任しとけっ」
「俺はモロクで情報を集めてくる。残りの暇なヤツはヴェニアスの修行でも見ておけ。」

キルは適当に役割分配をすると、先程のフローネ同様、道中のモンスターに対処できる程度の軽装備を整える。

「他は自由?」
「そうだな…。各自今後の準備さえしておいてくれれば、後は勝手にしていて構わない。」
「薬作っとこーっと。ジェン支援ちょーだい。」
「リアン…製薬は爆破被害の出ない外でやれ。」
「ちぇ〜物の移動面倒なのにー…」

不満そうに口を尖らせながらも、キルの鋭い眼光に圧され、しぶしぶ荷物をカートにつめ屋外に出るリアン。
ジャスティも、VIT型がクラヴァーナ1人しか居なく、防御面に劣るということもあり、防具強化のため精錬へと向かう。
1人残ったクラヴァーナは、気乗りしないが仕方なしにヴェニアスの修行に付き合うため、共に天津ダンジョンのポタを開いた。






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