Glorio #08
リアンの製薬作業を手伝い終え、気晴らしにとジェンはプロンテラの一角に在る酒場に向かっていた。
「チェリー…随分逢ってなかったな。」
"チェリー"というのは、ジェンの向かっている酒場で働く踊り子である。
出会ってまだ一年足らずだが、とても好い仲だ。
初めは、『ただ行きつけの店にいる娘』的な存在であったが、最近では彼女に逢いたいがために店を訪れるというケースも、そう少なくはない。
馴染み深い木製の扉をくぐると、そこには以前通っていたときと変わりない光景があった。
狩りの清算で余った金をつかって飲み会をしている連中。
酒を煽りながらダンサーたちの華麗な舞いに魅入っている輩。
酔った勢いで殴り合いをおっぱじめる奴なんかも、何一つ変わっていない。
その光景に妙な心地よさを感じながら、ジェンはいつも来たときに座る定位置へと足を運ばせる。
良く飲む酒と少量のパスタを注文し、ステージに目を向けると、目的の彼女は踊り子達の中心にいた。
バードの演奏する曲が終ると、踊り子達は一礼し、舞台裏や客席へと舞い降りる。
その中の一人、一際輝いた笑みで集まってくる客を退け、こちらへ向かってくるのが、チェリーだ。
「ジェン〜っ!来てくれたんだぁvv」
嬉しい、とハシャギながら抱きついてくる様子は、素直に可愛いと思える。
ヴェニアスやレグルスも小さくて可愛いが、この愛らしさは女の子特有のものだ、と心の中で頷く。
「久しぶりだな、チェリー。元気にしてたか?」
声にめいっぱいの色香を乗せ、微笑を向けてやると、頬を両手で抑えながら黄色い声をあげてピョコピョコと飛び上がる。
「元気だったよ〜♪ 新しいダンサーの子も増えたんだv」
「へぇ。良かったじぇねぇか。」
「うんっ! でもやっぱジェン来てくれないと淋しいよぉ〜」
「悪いな。ちょっとボス狩りとかしててさ…あちこち行っててここ寄る暇なかったんだわ。」
「そうなんだ〜。大変だね〜。今日はゆっくりしていけるの?」
「ん」
淋しそうに首をかしげて見つめてくる彼女をそっと撫でてやりながら、優しく答える。
「酒はあんま飲めねぇけど、話もしたいしノンビリしてくよ」
「そういえば、右目の包帯…どうしたの?」
軽くランチのパスタを口にしていると、ずっとコチラを眺めていたチェリーがふと呟く。
「大した傷じゃねぇよ?戦闘中にちょっと掠っただけだし。」
「でも包帯……痛そう…」
「ほら、キルのヤツが心配性じゃん。だから大げさにされただけなんだって」
心配そうに覗き込む瞳に、軽く笑ってみせると、つられて微笑むチェリー。
「…これからもまた忙しいの?」
「そうだなぁ…。ホントならノンビリして行きたいトコなんだけど、厄介事頼まれちまってんだ。」
「む〜〜〜…ジェンに逢えないの、寂しいなぁ…。あ!私も自由放浪に入れてもらえばいいんだっそしたらいつも一緒にいられるよね?」
「っはは、そうだな。でも結構危ない場所、行ってんだぜ? それでチェリー傷物にしたら大変だろ。可愛いんだから」
「そのときはジェンに責任とってもらうもん♪」
楽しそうに言うチェリーに苦笑していると、何処からか呆れの溜息が聞こえたのに気づく。
何時からいたのか、チェリーの後ろの席に座っていたフローネがこちら側に椅子を向ける。
「チェリー。ジェンなんかと結婚したら人生泥沼っていうか泣かされるよ? やめときな。」
「テメ…泥沼とか俺をなんだと思ってんだ」
「直結セクハラナンパ多重股野郎。」
「………orz」
「えー、酷いよお兄ちゃん…ジェンそんなんじゃないもん!私に、大人の恋の駆け引きを教えてくれたんだから!」
フローネの言葉に猛反発する傍ら、チェリーが向けた『お兄ちゃん』という言葉に、将来フローネが義兄(正しくは義弟)になるのだろうかと微かに
思考を巡らす。
彼らが血の繋がりの在る"兄妹"なわけではない。
ただ、出身地であるフェイヨン弓手村の一族はに、「村の者は皆家族」という風習があり、またフローネもまだ村に居た頃、幼いチェリー等に
弓の扱いを教えたりなどしていたため、村の子供からは兄として慕われていたのである。
「で、邪魔蟲フロネはなんでこんなとこに沸いてんだ?」
「僕だってよくココにくるんだよ? まぁ今はジャスティと待ち合わせるのに場所使ってんだけどさ。…噂をすれば」
「お待たせ」
タイミングよく入店したジャスティは、早々とフローネを見つけると歩み寄る。
フローネは呼び出した用件の該当者が居ないことに気づく。
「クライアは?」
「なんか居ないんだよね。アジトにも…。耳打ちしても繋がらないし」
「確認したいことと欲しい情報、あったのに…。」
ヤクタタズと毒舌を吐くフローネ。
クライアというのは、ジャスティとフローネが傭兵籍を置くギルドのマスターである。
聞くところによると、ジャスティのお得意様でもあり、ローグギルド一の稼ぎ手・加えて広い情報網持つという。
逢ったことが無いため真偽は不明だが。
「仕方ない、他を当たるかな…。」
「俺ももう一度探してみる。見つけたら連絡するよ」
「ほい。」
極秘捜査のような会見を済ませると、さっさと店を出るフローネ。
ジャスティも精錬し終えた盾などを、たまたま居合わせたジェンに渡し店を後にした。
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