Glorio #09


ジャスティが再度アジトであるフェイヨン近郊"チュンリム"を訪れている時、クライアはパートナーの"御剣(ミツルギ)"とルティエを訪れていた。
本当ならば、体調のことを考えると遠慮したかったのだが、どうしても"天使のヘアバンド"が欲しいからエンジェリングから盗んでくれ、と
言って喧しいのこの上ないため仕方なしについてきたのだが。

ルティエの玩具工場に到着してみると、探す間もなく既に先客がエンジェリングとの戦闘を終了したのが目に入った。
その戦利品の中に、目的の"天使のヘアバンド"があることも確認できる。

「先客が居たようだな」
「残念。…じゃぁ、」
「次の沸き時間まで待つなんてしねぇぞ。」

長年行動を共にしているという仲だけあり、彼女が言い出すことなんて考えなくても分かる。
次の沸き時間までは大体1時間くらい。
一時間もこんな場所で待ち時間の暇つぶしで狩りなどしていたら、発作を起こすこと間違いないだろうし、エンジェリング狙いでやってきた連中と、
もしかしたら奪いあいの戦闘に成り得ることもあるかもしれない。
今夜、ギルド戦があることを考えると、なるべく無駄な労費は避けたいところだ。
引き返そうと踵を返すが、再び思いつきの明るい声と共に腕を引き止められる。

「嵐、手伝ってよ」

"嵐"というのは、ボス"ストームナイト"の呼称。

「あと1枚で欲しいカード揃うんだ。クライは後ろから援護してくれればいいから。それなら、体の方も大丈夫でしょ? ね?」

さすがにそこまで言い寄られると断るのも気が引ける。
まったく、パートナーというものは気疲れする。
やはり、一人孤独が性に合ってるんだろうと心で呟きながら、しぶしぶ御剣の後を追う。

ダンジョンの2階につくと、一体何があったのか。
追い込みと思われる一次職のパーティや、転職したてと思われる二次職が何人も負傷し倒れているではないか。
傷の具合からしても、どう見てもこのダンジョンのモンスターレベルではない。
もっとレベルの高く、力の強いモンスターだ。

「大丈夫?」

傷を癒す効果のある"イグシラルドの葉"を使い、御剣が負傷者の介抱をしつつ、何が起こったのか尋ねる。

「嵐が…。」

苦痛に耐えつつも、辛うじて体を起こしたアコライトが返事をした。

「女のチェイサーが…嵐を連れまわしてるんです。私たちのような狩人と接触したらテレポで逃げて…」
「MPK…」

"MPK"とは、モンスターを押し付け間接的に他者を攻撃する者のことを指す。
御剣が介抱している間、周囲を警戒しつつクライアは厄介事の予感に舌打ちをした ちょうどそのときだった。
ストームナイトの大きな角が視線の隅に入ったのは。
こちらに向かってくる巨体の足元には、チェイサーと思われる衣装の女性。
つい先ほど話に上がったMPKだろう。

御剣
「先に逃げないでね、クライ。この人たちが逃げるまでの時間稼ぎくらいはできるでしょ?」
「本当、お前は面倒事が好きだな。付き合うこっちの身にもなれ」

毒舌を吐きながらも、クライアはすぐさま弓を撃ち、ストームナイトの気を自分に向ける。
が、やはりすぐに女チェイサーの攻撃によって視線を戻され、再び負傷者のほうへと向かいだす。

「あの女をどうにかしないことには、どうしようもできねぇぞ」
「わかってる。」

二刀の短剣を構えた御剣は、"エンチャント-デットリーポイズン"を唱え、ストームナイトを引き連れるチェイサーに斬りかかった。
その間にストームナイトを引き離し、負傷者が場を離れたのを確認すると、クライアも状態異常弓で援護射撃を撃つ。
さすがに、ボスによるMPK目的で訪れていた彼女は対人・状態異常などに対する防具を運良く持ち合わせいなく、
御剣との数回の攻防の後、舌打ちと共に汚い捨て台詞を吐き撤退した。
MKPerを排除した御剣はすぐさま対ボス短剣に持ち替え、クライアが遠ざけたストームナイトへと立ち向かう。

「クライ、取り巻きお願い」
「…ブリザーブ・ストームガスト」

クローンした大魔法を唱え取り巻きのモンスターを殲滅しつつ、ストームナイトの背後に回り、急所に"バックスタブ"をお見舞いすると、
低く唸り声をあげストームナイトの巨体は霧となり、無に帰した。
後に残ったのは、彼が手にしていた氷剣"ゼピュロス"と、ストームナイトの能力が封じられたカード。
それらを拾い上げると、御剣は早速腰に携えていた弓に挿す。

「…後一枚で揃うってお前…、アサシンの癖に弓に刺してどうする。」

この世界で弓を扱うことができるのは、弓師とシーフ、ローグだけで、アサシンは短剣とカタールしか扱えない。
そのため、アサシンである御剣が武器にカードを刺すならば、先に上げた二種のどちらかになるはずなのだが…。

「え?ああ、これね。私が使うんじゃないんだ。クライが使ってよ。」
「…俺こんなネタ弓なんざ使わねぇぞ」

渡された弓に刺されたカードの数々に、クライアは眉を寄せる。
"全ての攻撃範囲が広がる"効果のバフォメットcが1枚。
"攻撃時、一定確率でストームガストが発動する"効果のストームナイトcが2枚。
そして、弓手セットと言われるパーツの一枚…クルーザc。
確かに、凡用制の高い装備とはお世辞にも言えない物だ。

「ネタとか言わないでよ。私が苦労して集めたんだから。」
「苦労されたのは構わないんだが、これをどうつかえってんだ?
 弓手セットなんて、半漁人とドラゴンテイルくらいしかないぜ。」
「知ってる。『欲しいのが@1枚で全部揃う』って言ったじゃん?
 帰ったら渡すよ。共有倉庫に入ってるから。」

なんとも準備のいいことで。

「クローンのSGだとディレイあるでしょ?
 でも、ソレなら攻撃しながら自動発動だし、クローンで別のもの使えるじゃん?
 試しに、今日のGvで使ってみて。INTとAGI・DEXの高いクライなら絶対使いこなせるから」

言われてみれば、自分にとってはそこそこ使えそうな気もしないでもない。
戦闘回避・逃避を優先し素早さだけは高く、また、体に負担のかかる接近戦よりも遠距離から弓を撃つため命中力も弓手並みに高い。
足止め用にストームガストをクローン取得していたため、魔力もそこそこ上げてある。
更には、弓手セットの効果により"遠距離攻撃のダメージ・素早さ・必中攻撃が向上する"というボーナス付き。
…使ってみる価値はありそうだ。

クライアは別のスキルをクローンするのを兼ね、早速弓の試しに、と簡単な狩場・そしてプロンテラのPv施設へと向かった。
彼と別れた御剣は、今夜行われるギルド戦に向け、アジトに戻り準備を整えた。







(C)2004 Gravity Corp. & Lee Myoungjin (studio DTDS),All Rights Reserved.
(C)2004 GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.