Glorio #10

通いなれた狩場で新たな弓の手慣らしを終え、Pvルームで騎士の強技"ボーリングバッシュ"を盗作し、普段よりも軽く疲労を体に覚えながらも
クライアはプロンテラ中心の転送カプラへと向かっていた。
その道中、通りかかったヴァルキリーレイム。
何やら其の砦を勝ち取った物が、勝者の証として砦宝箱からあらわれた「天使のHB」に喜び、打ち上げをやっている音が耳につく。
高価なレアアイテムとして市場に出回ってはいるものの、相当効果なため入手がなかなか難しい。
まったく、相方の御剣は何故こんな高価なものを欲しがっているのか…。
女のオシャレ心にはやはり理解しかねる。

…そう思いながらも、無意識に彼の足は気配を消し、盗みを行う姿勢へと身を潜めていた。






チェリーとの穏やかな時間を過ごした俺は、日が暮れたころに店を後にした。
さりげなく仕草や会話に色香を加えるだけで、顔真っ赤にしちゃってさ。
や〜っぱ女の子はあぁじゃないとな。
野郎ばかりのギルドにパーティに居ると、ああいう純粋な女の子の反応が新鮮でたまらないぜ、まったく。
チェリーのオカゲで気分も和らいだし、久々に散歩がてら、のんびり歩いて帰るとしますか。

そうだ。
首都北部にある、ヴァルキリーレルム。
どうなってるかな。
どっかの大手ギルドが長い間砦死守してるって聞くけど。
砦はどうでもいいとして、遊歩道。
あそこの遊歩道には、多くの花壇があって、年中綺麗な彩を咲かせてるんだぜ?
俺は女じゃなから花が好きってわけじゃないけど…あそこの遊歩道だけは、なんだかリラックスできるから、嫌いじゃねぇんだ。


北の城門をくぐって、ヴァルキリーレルム―通称プロ砦マップ―へと足を踏み入れる。
二ヶ月前に訪れたときは、ちょうど初夏の花々が咲き誇っていたが、今は一番目に付くのはコスモスの花か?
もとから花の名前を知っていたわけじゃねぇが。
こう何年も足を運んでると、いい加減覚えちまうんだよな。
この季節は最高に好きだ。
空気も澄んでるし、秋風も気持ちイイし、読書には最適だし。

「待てこの泥棒ー!」

泥棒も居るし。

………って、何か違ぇぇぇ!

何だよ人が折角寛いでるってときに!

「あのローグ、何処に行った?!」
「あっちに行ったように見えたけど…」

何だ何だ?
大手ギルドの連中がゾロゾロゾロゾロよってたかって。

「あいつ、何盗ってったんだよ?!」
「天使のヘアバンド。」
「まじかよ?! 取り返さないと、うちら大損じゃんか!」

…ふぅん?
アジト宝を忍び込んだローグに盗まれたってか?
そりゃご愁傷様。

「…しっかし、たかが天使のHB1個盗まれたぐらいでギルド総出で捜索だなんて。奴さんも暇人だなぁ…」
「はっ、ほんとよな。」
「ぁん?」

突然背後から聞こえた声に振り返ってみると、そこのにはチェイサーに似た服のローグが。
このスカしてるような目、紫の髪、この声…どっかで聞いたことあるぞ。



思い出した。

「この前夜這いしやがったやつか」
「夜這いとは随分だな、おい。」

そいつはハンっと鼻で笑うと、手の上で軽く弾ませて遊んでいた天使のヘアバンドを、俺の頭に被せた。

「くれんの? ってか、あいつらの砦からコレ盗んだの、お前かよ」
「別に誰もテメェにくれてやるとは言ってねぇ。ま、そうしたらお前も共犯に見られるんじゃね?」

ククっと喉の奥で笑いながら、そいつは顎で追っ手のほうをシャクル。
俺が振り返って目を向けた時には運悪く、そいつらの一人と目があっちまったじゃねぇかよ!
しかも、問題のブツは今俺が装備して………。

「あそこに居たぞ!」
「あのプリも仲間か!ポタを使わせるな!」

あぁぁっ やっべぇ。
俺思いっきし共犯者にみられてる…orz
ぁぁぁ、団体さんが押し寄せてきやがった!

「だぁぁもう!なんで俺まで追われなきゃいけねんだよ!」

走りながら、隣で余裕面…ってか楽しんでねぇか?!
こいつ!この顔!!

「てめ、笑ってねぇで責任とりやがれ!」
「はぁ?責任とれって、どうとれってんだよ」

くっそ、コイツまだ笑ってやがる。
むかつく!

「まさか、あんな大人数を相手にしろっていうんじゃねぇだろうなぁ?プリ様よ。」
「ぅ…」
「それよか、ポタでも出してくれりゃ、とっととこの場を切り抜けられると思わねぇか?」

言われて見れば、確かに。
くそ、こいつ何考えてやがるのかサッパリわからねぇ。
愚痴は後だ。
とりあえず、ポタを……

「ワープポータ…」
「レックスディビーナ!」

うそ〜ん。
こういう時にかぎって緑ポも万能薬もねぇんだもんな…orz

「はは、沈黙きたコレ。てめぇプリの癖に薬ももってねぇのかよ。」
「っるせぇ!今日はたまたまオフだったんだよ!ふざけやがって、大体テメェが側に寄らなきゃ俺様までこんな目に!」
「お喋りしてていいのか?敵さんら、すぐ後ろまで迫ってるんだぜ?」

こいつ、適当な面してるくせにちゃっかりマジメこきやがって。

「沈黙かけられてっからポタだせねぇぜ?どうすんだよ」
「頭使えよ、馬鹿。」
「バ…っ?!」

馬鹿?!
この俺に向かって、馬鹿?!
俺様修道院では在学中ずっと上位の成績だったんだぜ?!
その俺に向かってバカだと?!
冗談じゃねぇ!!

「誰がバ…」
「プロの街の路地に逃げ込んで、巻くんだよ。チンタラ走ってたら掴まるぜ」

あぁぁぁ!
クソこのやろう偉そうに!
ぜってー逃げ切ったらボコる!

しっかしこのローグ。
随分と軽装だけど(身に着けている装備つったらオシャレ用妖精の耳とグラディウス1本くらい)、何考えてんだ?マジに。
こんな軽装じゃぁポリン相手くらいしか戦えねぇんじゃねえの?
靴も、ちゃんとカード刺しのシューズってわけでも無さそうだし。

「――っ、くそ、こんな…ときに…」

あ?
なに?

「ちょ、な…?!」

なんだ?!
今度は突然蹲って咳き込み出したぞコイツ?!
マジ何がなんだかわからねぇ!!

「お、おい?何やってんだよ?!」
「ゲハっ、カハっ、グ…ゴホっ」

唾で咽返ったか?
俺を巻き込むからバチがあたったんだ。
ざまみやがれ。

「早くしねぇと追いつかれるぞ。何やってん――…」

 ド サ ッ

ぇ―?

って、ちょ、まておい?!
倒れてんじゃねぇよゴラ!!!

「起きろ!起きろってコノ!おい?!」

ったくカンベンしてくれよホントに!

「居たよ!あっちだ!」

うわやべ、見つかった!
今度こそ開いてくれよ…

「ワープポータル!」

よっしゃ。
…どうするべ…んなとこにコイツ置いときっぱなしもアレだよな。
急に咳き込んで倒れるってことは、病気かなんかか?
サスガの俺も、病人放ってトンズラするほどワルじゃない。
しかたない、担いで連れて返るか…。

「世話かけさせやがって…」

こうして、俺とワケのわかんねぇローグは一難からなんとか逃げ切ることができた。






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