Glorio #13

「どうかしたの?」

帰宅と同時に目に付いた、キルの怪訝そうな表情に、フローネは眉間に皺を寄せ首を傾げる。
愛用の弓矢を下ろしながら定位置に向かうその後ろからは、転職試験を終えウィザードになったレグルスと付き添いのグレイブ。
クラヴァーナと共に修行に出ていたヴェニアス。防具精錬に出かけたジャスティがぞろぞろと姿を見せた。

「いや…」

言いかけ、何から話すべきかと一瞬悩むキルに、ジャスティは半開きになったジェンの寝室を覗きながら声を上げた。

「あっれ?! クライア、なんでこんなとこに居るの??」

ジャスティのすっとんきょんな声に、フローネとキルが鋭く反応すし、同時に言葉を投げかける。

「ジャスティ、コイツを知ってるのか?」
「それって"例"の人のこと?」

同時に投げかけられ返答に戸惑いながらも歯切れ悪く答えるジャスティ。

「え、ん、うん。俺のお得意様だよ…。で、ええとうんそう、あの人が『Bloody cross』のマスター」
「『Bloody cross』?! 既存ギルドの中で最も悪評高く始末令が幾度も出されて居るはずだが…」
「なんでその人が"ココ"に居るワケ。アジトに居るんじゃなかったの。」
「は?何だよお前知り合いか?ちょーどよかった! 身元も何もさっぱりわかんなくて困ってたんだって」

次々投げかける言葉に、キル・フローネに続きついでにジェンまで加わって、さらに困惑状態になりつつあるジャスティ。
身元不明人の知り合いが来て安心したジェンとは裏腹に、ジャスティに不満の眼を向けるフローネと、警戒を一層強めるキル。
かなり殺伐とした状況だ。

これは…上手く物を説明しなければ、次第によってはキルが如何動くかもわからない…。
ジャスティは軽く一息つくと、順々に、自分と"彼"との関係を皆に説明を始めた。
まず話すことは…

「えぇとね…、彼は"クライア"…さっき言った通り『Bloody cross』のマスターで俺の商売のお得意様なんだ。
 彼は盗賊だから、盗んだ品々を俺が委託露店して手数量を頂いたりしてる。」
「利害一致の商売相手…か。だがその盗品は、モンスターからだけではなく他人やギルドからのものが主で、そのギルド事態
 悪質なものと評判高いぞ…。まさかお前も、そんなやつらと取引していたとはな…」

一線引くキルに、ジャスティは慌ててフォローを入れる。

「ち、違うんだよ!いや違わないけど…あーもーなんて言えばいいのかな。。『Bloody cross』は、世に捨てられた人たちの
 集まる…身寄りのない人たちのホームなんだよ…」
「だが窃盗は立派な犯罪だ。」

元の役職柄か、ジャスティの言葉を飲まずに一点張りなキル。
これ以上縁語をしても、耳を貸してくれないだろう…。
仕方なしに、フローネからの痛い視線を気にしつつジェンに尋ね寄る。

「ねぇジェン。なんでその人…ここに居るの?」
「んあー…話すのメンド…」
「や、あのね?話してくれないと、俺がフロネに仕打ち受けるんだけど。」

そのフローネはというと、相変わらず「逢うはずだった"彼"が在るべき場所ではなく、ここに居るのか」と鋭く睨みを飛ばしている。
此処に居る事がもっと早くに知れていれば、探し回ったり無駄な時間を潰さずに狩りに行けたというのに。と。

「散歩してたら、ソイツのさー盗みの現場に運悪く出くわして共犯に見られたわけ。んでもって一緒になって逃走中に
 突然咳き込んで倒れちまって、まさかそんなヤツをその場に放置で自分だけ逃げ帰るなんて出来ねぇだろ」
「発作、起こしちゃったのか…。フロネ、そういうこと らしいよ。」

こちらは納得して貰えたようだ。
これでオイタからなんとか逃れられた…。

「それにしても、もうギルド戦始まってるよね? 大丈夫かな…」

ジャスティの呟きに、「なにが〜?」と暢気に返すのは、子供たちの面倒を見ていたグレイブ。

「クライア、主に指揮してるからさ…ギルド…大丈夫かな…。今物騒なギルド潰しなんてのも流行ってるし…」
「随分と悪党集団に愛着を持って居るようだな。」
「ここだけでなく、一応はあっちのギルドにもお世話になってるからね。」
「貴様も悪党団の一員ということか。」
「もう、キルそういうのやめてよ…そしたらフロネだってそういうことになるじゃん…」

言い攻められ、男らしくもなく半ば涙目のジャスティ。

「僕はただ情報が欲しくて利用してるだけだよ。そもそも、僕はこのギルドで仲間と思ってるのはキル…あんただけだからね」

唐突のフローネの決裂宣言に、一部を除く一同が静止する。

「おい、まてよ…なんだよ、それ…」

愕然としたジェンに、冷たい視線を向ける。

「言ったことがわかんないの? 僕はアンタを仲間と思ってないって言ったんだ。…アンタみたいなやつなんてね…」
「なっ…!てめ、喧嘩売ってんのか?!」

頭に血が昇ってるジェンを掴み静止をかけるのは、キルでなく…ジャスティ。

「フロネ、そのへんにしときなよ。ジェンも…事情があるんだ…色々。」
「事情?! どんな事情があるかしらねぇけど、んなこと突然言われていてもたってられっかよ!! っざけんじゃねぇ!」
「そーやって誰かに支えられてでしか生きて行けない…。そんな弱いアンタなんか唯の足手惑いだってこと 自覚あんの?」

それだけを言い残し、フローネは終始見守っていただけのクラヴァーナと共に2階の寝室へと退室してしまった。
ああもう!と、言いすぎを指摘しに、ジャスティもその後を追う。

「あし…てまどい…? 俺が…?」

ズバズバと刺さる言葉を散々投げられ、ジェンは脱力し座りこんでしまった。
そんな彼の身体をグレイブは空かさず支えに走る。

「気にすんなって、アイツの毒舌なんていつものことだろ? 馬が逢わないだけだって! な?
 ジェンは全然足手惑いじゃねえよ、いっつも支援しねぇって言ってるくせにちゃんとしてくれてるし!
 むしろさ、キルだっているんだし、オレのほうが〜…なぁ? な、キル?そうだよな?」

助けの言葉を求めるグレイブには悪いが、正直…フローネの言ったことも強ち間違っては居ない。
お荷物ではないが、ME型ということもあり、純支援…しかもvit型のクラヴァーナには確実に劣る場面もある。
剰、ヴェニアスがプリーストになれば、あのちっぽけな子供にさえも抜かれるだろう。

何より、今後の活動を考えると、やはり彼の性格…いや、精神上、足を引っ張ることにも成り兼ねない。
彼の身を守るためにも、もはや甘やかせず家に帰したほうが良いのだろうか…。

…無理…だ。

何と言っても、「家に帰る」ということだけは絶対に嫌がり認めないだろう。
何と言っても、自分の行く先にどんな危険があるだろうと、着いてくるだろう。
自分も、彼も、思って居た以上に互いに執着してしまって居るのだから…。



(C)2004 Gravity Corp. & Lee Myoungjin (studio DTDS),All Rights Reserved.
(C)2004 GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.