Glorio ~another Story~ #13

recollection 3 (Cryie)



遠く、近く、浅く、深い…記憶。
まだ冒険者として旅立つこともできない、幼少時代の忘れえぬ記憶。

この日、まだ幼い俺の心に初めて「人を憎む」「裏切り」「人を失う哀しみ」「孤独」…生きる上で酷な感情と傷を深く刻まれた。
天候は最悪。土砂降りの雨で冷え切った外気の中、息を切らせ膝がガクガクになるくらい全力でプロンテラ聖堂までの道を走っていた。
声の限り、父だった人間の名を呼び叫び、静止させ追い帰そうとする門番の腕を身を捩って振り解き、固く閉ざした聖堂の戸を叩く。
先刻、共に捨てられた母が酷い発作を起こし倒れたのだ。
生まれつき病弱で病を患っていた母親には、子と自分を養うだけでも、身体に相当の負担が掛かっていたのだろう。
彼女の心身は病に蝕まれ、限界の悲鳴を上げていた。
床に倒れ、激しく咳こむ彼女の口からは、咳のたびに黒い吐血を繰り返し、肩を大きく上下させ、「ヒューヒュー」と音を立てながら辛うじてする呼吸。

 金が…せめて金があれば、医師の診察と薬を貰えるのに…。
 そうすれば、きっと助かるのに。

それだけが頭の中に強くこだまし、何度つき返されても、雨水でずぶ濡れになった体とガラガラになった咽に鞭を撃ち、只管に、繰り返し叫んだ。
しかし男は、窓越しにただただ、叫び続ける俺をあざ笑う嫌な笑みを浮かべたまま傍観しているだけ…。
あまりにしつこく粘るものだから、終にはメイスでもってボコボコに殴られ、追い返された。
去り際にもう一度見上げた窓には、惨めで愚かな俺を見下し嘲笑う、奴と目が合った。
俺と母親を捨てたそいつは、最後に鼻で笑うような素振りを見せ、謁見することもなく部屋の奥へと姿を消してしまった。

そして、隙間風の通る風化した家に戻った時には、母の息は既に途絶え、体は雨で冷え切った自分よりも、冷たく…青白かった…。




プロンテラ聖堂にいた司祭たちは、揃いも揃ってまるで『聖職者』とは思えないほど非道な連中だった。
助けを求める幼い子供を暴力で持って追い返し、遊びで夜を過ごしたオンナとの間にできた子供は母と共に捨て見離し…。
母を…唯一の身寄りを失う哀しさよりも、人間の背徳と非道さに激しい憎しみと怒りを覚えた。

その時、この世は全て「金」だと悟った俺はシーフとなり、金のため盗みを働き、孤児となった後も飢えをしのぐ生活。
父だった男に与えられた名も捨て、「Cry」という単語からとって「クライア」と自らを名乗った。
人間の醜さと汚い面を知ってしまってからは、人付き合いも自ら避け、野良犬の様に『生』にしがみつく為なら汚い手口だろうと、飲み水が泥水だろうとも何でもやった。

そんな不衛生な生活を長く続けたためか、それとも母からの遺伝が開花したのか、ローグとなりそれなりに生活ができる様になったころから、
長時間の運動、短時間でも急激な運動をすると、倒れた母の様に酷く咳き込み、時には吐血や失神することも…。
それまでに盗みで儲けた資金を叩いて医師の診療を試みたが、原因はわからず、治療法も薬さえも貰えないまま今に至る。


病に怯えはしない。
人と関わりも持たない。
孤独でも哀しみはない。
何にも縛られず、とりあえずは「今を生きる」ために自分に与えられた「自由」を上手く活用する。
それだけが出来れば、狩りをする能力だとか、家庭だとか、仲間だとか、そんなものは必要なかった。




必要…無いと自分に言い聞かせていた。
失う哀しみと、背徳の辛さを知って居るから。
「金」と、「生きるための」最低限だけあればいい。
それさえあれば、他は何も………



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